【怖い話】手を振る坊主頭@城ケ崎海岸

インタビュー

——それでは、城ケ崎海岸で起こったことについて教えて下さい。

はい。20年くらい前の話です。夏の終わりに私と友人はバイクで、キャンプというか野宿というか、タープと鍋とライターだけを鞄に詰めて城ケ崎海岸にやってきました。

ーータープというと、大きくて丈夫な布でしたよね?工夫しだいでテントにもなるような。

そうです。木と木にロープを張ってタープをかければ簡易テントになります。私達が陣取ったのは岩場で木がなかったので残念ながらテントは張れませんでしたが。海岸についたころには既に夕方で、周りには帰り支度をしている親子連れが1組いるだけでした。夕飯は何にするか相談しながら家路につく親子の会話を耳にしながら、私達は急いで枯れ木を探して回りました。

ーー枯れ木は火を起こすためですか?

そうです。えーと、、途中でお叱りを受けそうなので先に白状してしまいますが、当時は無知ゆえに無許可で焚き火台もなしで火を起こしました。すみません。

ーーいやいや私に謝っていただかなくても(笑)、、続きをお願いします。

はい。すいません。枯れ木を集めて火を起こした頃には、周囲はもう真っ暗になっていました。なんというか、漆黒の闇というか、これまで経験したことがないくらいの暗さに驚いたのを覚えています。目に見えるのは、焚き火の炎と向かいに座る友人の顔だけで、岸壁に打ち寄せる波の音が友人の声を打ち消してよく聞こえませんでした。

鍋を火にかけ、道すがら買った食材でカレーを作って食べました。すっかりぬるくなってしまったビールを飲みながら仕事や恋愛の話で盛り上がり、満腹になって煙草を吸い始めたころには、目が慣れてきたのか、真っ暗ではあるものの、友人の後ろにある海と空と海岸の区別がつくようにはなっていました。

そういえば、よく聞こえなかった友人の声も今はよく聞こえるななどと耳を澄ませていると、さっきまでカモメかなにかの鳴き声だと思っていた音が、なんだか人間の子供の声のような気がしてきました。一度そう思ってしまうと、『おーい、おーい』と呼んでいるようにしか聞こえなくなり、私は声のする方に目を凝らしました。

暗闇の中で誰かが手を振っているのがはっきりとみて取れました。いや、暗いので当然シルエットしか見えないんですが、15メートルくらい先の岸壁で真っ黒い坊主頭の男の子のような影が青黒い海をバックに腕を左右に大きく振っているのが見えました。

『こんな真っ暗な海岸で子供が遊んでる』

『え?』

『子供がそこで手を振ってる』

『え・・・?』

こんな事を話した後で、私と友人はおそらくほぼ同時に『こんなとこに子供がいるわけない』と気づいたんだと思います。それから、、手を振る坊主頭以外にも、岸壁を叩く波音に紛れて、クスクスとか、タタタタだの、真っ黒くて小さい子供達がいるような気配がし始めて、辺り一面が異様な雰囲気に変わったんです。

『やばい、やばい、やばい。』 

私は自分でも気づかないうちに、全く動けなくなっていたんだと思います。

えええええるっ!! My Sweet baby wears fishnet stockings!!

友人は唐突にStray Catsの「Fishnet Stockings」という曲をシャウトしながら、鍋を坊主頭めがけて放り投げながら走り出しました。一瞬呆気にとられた私も弾かれたように走り出し、無我夢中で彼の後を追いました。

何をどうすればそうなるのか、今でも信じられませんが、あんな恐ろしい目に遭っていながら、駐車場に辿り着くころには、ふたりとも爆笑しながら走っていました。

『ぎゃはは幽霊に鍋なげやがった、く、苦しい、ひ~』

『ぎゃはははははは!!も、もう、走れねえ、はあはあはあ』

まるで安全地帯のように駐車場を明るく照らす自動販売機の前にへたり込み、ひとしきり笑った後で、煙草に火をつけた私達を追ってくるものはありませんでした。

『ふぅー。で、さっきのはなんだったんだ?』

『知らね。帰ろ。』

ふとした瞬間に今でも思い出します。幽霊めがけてカレーをまき散らしながら飛んで行ったあの鍋のことを。

ーーありがとうございました。