火の玉との遭遇
当時中学生だった私が友人とキャッチボールをしていた時の話。小高い山の上にある杉林に囲まれた広場で、あと1時間もすれば暗くなってしまいそうな夕暮れ時だった。
ボールをキャッチする際に、ふと左上方に浮かぶ何かが見えたような気がして手を止めた。目を凝らして見てみると、上空20メートルくらいの高さに青い火の玉のようなものがゆらゆらと浮かんでいる。友人も私につられて同じ方角を見ているようだった。
『なんだあれ?』
歩み寄りながら話しかけると、友人は興奮した様子でまくし立てた。
『わわわわ、ひのたま、火の玉!!』
友人の様子とは裏腹に、当の火の玉はのんびりふわふわと揺れていて、ゆっくりとこちらに向かって近づいてきているようだった。当時はスマホなどない時代で写真や動画を撮るといった選択肢はなく、私はすぐそばにある自宅や隣人宅を『ひのたま出た~!』と宣伝してまわった。
皆を連れ戻って火の玉が消えていたら、明日からウソップと呼ばれてしまう状況だったが、より暗くなった夕空に、青白い火の玉はひと際存在感を増した姿を浮かび上がらせていた。
『これは、、、驚いたな、、。』
『林の向こうの墓地から出てきた燐じゃないか?』
『樹に燃え移ったりはしないわよね?』
大人達は口々に驚きや不安の声を上げていたが、一向に消える様子のない火の玉に飽きてしまったのか、一人また一人と仕事に戻っていった。
やがて取り残された私と友人は、大人達が去ってしまった事で『火の玉との遭遇』がなんだか大した出来事ではなかったような気持ちになってしまい、ゆらゆら浮遊しつづける火の玉を尻目に家路についた。
科学的に実証された火の玉
プラズマの物理学的研究の第一人者である大槻義彦教授は火の玉やUFOは電気現象(放電現象)による発光だとする著書を出版しており、再現実験にも成功している。また火の玉を電子レンジで再現する方法を紹介しているユーチューバーもいる。
火の玉は物理的な現象であり、科学的に証明できるという考えには賛同できる。数十分に渡って大勢の人に間近で目撃されたものが心霊現象や超常現象だとはどうしても思えないからだ。
しかし、大槻教授やユーチューバーの実験で再現した写真や動画を見る限り、私が遭遇した火の玉とは似ても似つかない。約20メートルの至近距離で見た火の玉は完全な炎の形をしており、酸素量が多く高温であるためなのか、芯は白く外に向かって青色を濃くするグラデーションとなっていて、ゆらゆらと揺れる姿はそれが炎以外の何ものでもないことを物語っていた。
まとめ
おそらく科学的に実証された火の玉と、私が遭遇した火の玉は全く別のものだろう。あまりに見た目が違いすぎる。残念ながら写真や動画などの証拠がないので『私はネッシーを見た!』と主張する人と同様に誰にも信じてもらえないだろうが、こればかりはしょうがない。いつか私の見た火の玉も科学的に証明される日が来ることを楽しみに待ちたいと思う。