風邪程度であれば、『良い病院』でなくても全く問題はない。近所の病院に駆け込めば事は足りる。しかし、生活や人生そのものに影響を与えるような重い病気やケガはそうはいかない。良い病院に出会わなければ失ってしまう身体機能や命だってあるはずだ。かかりつけ医が推薦する病院は、自分にとって本当に良い病院なのだろうか? そんな疑問を抱いた時に知っておきたい病院探しの方法をご紹介する。
見つからない『良い病院』
ネットを検索しても見つからない
医療関係の知り合いやコネがない場合、ほとんどの人はネットで良い病院や名医を探すだろう。しかし、これが見つかりそうで見つからない。情報は埋もれるほどに存在しているけれど、誠実な医者風のステマ記事、信じてよいのかわからない口コミなどが検索結果上位をしめている。本当に必要な情報は砂漠で針を探すことに近い状態だ。
ネット検索の現状
飲食店などのランキングと同じで、今や病院もネットの口コミが良ければ儲かる時代になってしまった。ランキング上位の飲食店が美味しくないことはよくあるけれど、これと同じことが病院探しでも起こっている。
またネットの広告にも問題は多い。2019年度に厚労省が行った調査の結果では、自由診療を行っている歯科や美容整形においてはかなりの数の広告違反が行われていたことがわかっている。
『良い病院』の探し方
病院探しはこれだ!
前置きが少し長くなってしまったが、断言してもいい、病院探しで唯一迷いなく信じることが出来る情報は『医療実績』だ。
もちろん『医療実績が多い病院』がそのまま『良い病院』という訳ではない。しかし『医療実績が多い病院』を候補に入れることに意義を唱える人はいないだろう。
医療実績を検索できるサイトは複数あるが、無料で利用できるサイトのURLを2つほど以下に記載する。
どちらもDPC対象病院の医療実績を検索することができる。病名と地域を選んで検索すると、治療実績件数の多い順で病院が表示される。今まで候補に入れていた病院が、この検索結果によって候補から外れるなんてことも少なくないはずだ。それだけ医療実績なしで病院を探すのは難しいのだ。
さらっと『DPC対象病院の医療実績』と記載したが、入院経験のない人には馴染みのない言葉だろう。ややこしいことに『医療実績』にはいくつか種類があり、その中の一つが『DPC対象病院の医療実績』ということになる。次の節で簡単に説明する。
医療実績の種類
医療実績にはDPCデータやNDBデータなどがある。研究者が利用するようなデータを含めると範囲が広くなり一般利用も難しいので、ここでは触れない。以下は各データの要約となるが、より正確な情報は是非厚労省のサイト等で確認してみてほしい。
DPCデータ
DPCは2003年から導入された入院診療費の新しい計算方法。導入から20年以上経過し、入院や手術を行うような大きな病院の多くはこの新しい計算方法であるDPC制度に参加している。参加病院はDPC対象病院と呼ばれている。
DPCデータは、『DPC対象病院で入院を伴う診療を受けた患者』のデータを指す。豊富な患者のデータが特徴で、入院から退院までの状態、行った診療行為、使用薬剤など様々なデータが記録される。今回ご紹介した病院探しの方法は、このDPCデータベースが検索の対象となっている。
データの対象範囲:DPC対象病院で入院診療費が発生した患者の情報
ポイント:病名で医療実績が多い病院を検索することが出来る
NDB(NationalDataBase)
NDBは2009年から構築・運用されてきた医療データベースで、大きく分けて2種類の情報が格納されている。『レセプトデータ』と『特定健診・特定保健指導情報』だ。後者については病院探しにあまり関連性がないので説明はレセプトデータのみに限定する。
レセプトとは、簡単に言えば保険証を使って受診した際に必ず発行されている診療報酬明細書のことだ。このレセプトに記載されている情報のうち、傷病名や治療内容などの情報がNDBに格納されている。ここまで読んでピンと来た人も多いと思うが、DPCデータと比べるとレセプトデータの対象範囲は圧倒的に広い。広いというよりも殆ど全てと言ってもいいだろう。保険証を使った診療の請求情報の95%以上がレセプトデータとして登録されているそうだ。
圧倒的に広範囲な医療実績データベースだが、病院探しにおいて利用価値はない。厚労省が公開しているNDBオープンデータでは病院名が削除されているからだ。『個人が特定されない集計データであれば公表してもよいのではないか』という議論のもとに公開されたという経緯があるようだ。
もしNDBオープンデータに病院名が追加されたなら、入院を伴わない病気の病院探しももう少し楽になるのだが、現在のところは公開されていない。
データの対象範囲:ほぼ全ての保険医療機関の患者の情報
残念なポイント:病院名が公開されていない
病院が見つかったなら次は医師を調べよう
A病院の医療実績を積み上げた医師が、医療実績の少ないB病院に移籍した。医療実績は担当した医師のみに帰属するわけではないが、こういった事実があったのなら、患者としては知っておきたいところだ。だからこそ、『医療実績』による病院探しで良さそうな病院を見つけたら、その病院のオフィシャルサイトで、医師のプロファイルを隅から隅まで読むことをお勧めする。その病院の疾病●●の治療の権威は誰で何年間在籍しているのかなどを把握できれば、A病院を選べばよいのか、B病院の方が良いのかある程度判断できるだろう。
近い将来の病院の探し方
今後に期待したい『医療情報ネット』
知っている人はあまりいないと思うが、現在、各都道府県ごとに『医療情報ネット(医療機能情報提供制度)』なるサイトが存在している。これらのサイトは厚労省主導で各都道府県によって提供されている検索システムで、以下サイトから確認することが出来る。
国民に医療情報をわかりやすく提供する制度ということだが、使ってみればわかる通り、現在のところあまり役にはたたない。理由は明白で、提供する情報が電話帳レベルの基本的なこと(住所、診療科目、電話番号など)だけとなっており、この程度の情報で検索した病院群から、どうやって自分に合った病院をみつければよいのかわからないのだ。
厚生労働省は、2016年から『医療情報の提供内容等のあり方に関する検討会』を開いており、2023年8月には第21回目が開催された。この検討会では、現在各都道府県別で提供している『医療情報ネット』を統合した『全国統一システム』の開発を検討しており、この新システムではNDBを活用した情報提供も視野に入っているようだ。
もしこの『全国統一システム』で、NDBやDPCのデータをソースとし、病名・治療件数・病院名などを検索表示することができるようになれば、『疾病●●の治療件数が日本で一番多い病院』といった情報はもちろん、DPCのみでは検索できなかった歯科医の情報なども簡単に調べられるようになるはずだ。国民にとって、病気になったらまず最初にチェックしたい、素晴らしいシステムになるのではないだろうか。なお、この新システムのリリースは、医師の時間外労働上限規制が適用される2024年度を前に行う見通しとなっている。
まとめ
ここで紹介した病院を探す方法は不完全だ。なぜなら探す対象が『DPC対象病院の医療実績』のみであり、入院を伴わない比較的軽い病気の治療や歯科医のデータは対象外だからだ。今後、日本国内で行われた医療実績全てを検索することが出来る『医療情報ネット』が開発・公開されれば、より広く病院を探すことが出来るようになるだろう。国が開発するICT系システムは正直なところ期待外れなものが多いが、『医療情報ネット』は是非期待に応えてくれることを願う。